おもいこみ☆真空パック。
いいかげん日垣隆検証をしろと言われそうなんですけど。
弁護士の太田啓子氏が、女の子を窒息させるようなAVなるものの存在を知って、こんなツイートをしていた。
「真空パック アダルトビデオ」で検索して吐き気。仮に作り物であったとしても、あれに性的に興奮するのは猟奇的。猟奇的な嗜好も内心に留まるなら自由だけどその嗜好が表出した表現物には恐怖を覚えるとしか。本当に真空パックにしているなら即刻全現場でやめるべき。死人が出かねない。
— 弁護士 太田啓子 (@katepanda2) September 3, 2017
それに対して、山本弘氏がこんなクソリプもとい引用リプをしていたのである。
「危険だから禁止しろ」という理屈だと、カーレースとか格闘技とかも禁止されることになるのかな? https://t.co/Q1uXSgNuQ2
— 山本弘 『BISビブリオバトル部』 (@hirorin0015) 2017年9月4日
いや、なんていうか山本氏が最近表現関係になるとトンチンカンなことしか言い出さなくなってしまっているのは重々承知だが、ここまできてしまったか。と学会本を新刊出たらこまめに買ってた頃、終わりがけ数年はほとんど山本氏の担当箇所目当てに読んでた人としてはあまりに悲しいことである。
山本氏については後ろで再び触れるとして、その下で山本氏はツイッター有識者の別名もある鐘の音氏のこんなツイートをRTしている。
「俺はトマトが嫌いだ」わかる
— 鐘の音@新刊とらに委託中 (@kanenooto7248) 2017年9月4日
「俺にトマトが出されないようにする」わかる
「俺の最も嫌いなトマトを探してやる」わからない
「俺の最も嫌いなトマトを作ってる栽培農家を許さん」理解不能
ネットでよくある光景。
何についていっているのか具体的に述べていないのだが、それ以前にちらほらツイートしてあるAVについてのつぶやきなどから判断すると、やはりこのことについて触れているのだろうと思える。また、ついているリプも似たような判断をしていて、それに対して鐘の音氏が補足や訂正をしている様子もなさそうだ。以下そういう文脈と解釈して話を進める。
一見明快そうに見えるこの手の話でいつも思うのは、「好き嫌い」はもっと多義的なものではないか?ということだ。俺はトマトはそこまで嫌いではないが、キュウリが嫌いである。もちろん人がキュウリを食べていようと何とも思わない。
これがクジラやウナギになると話が難しくなる。こういった食品を食べることを嫌う人は、クジラやウナギを嗜好レベルで嫌っているからそういう態度をとっているわけではなかろう。「嫌なら食うな」といわれても、そういう話じゃねえよ、好きだけど食べない、という人も多いだろう。ウナギが好きな人より、ウナギの流通業者や広告のほうに怒りが向く、というもわりと自然な対応である。
さらにこれが、「食料としての人間」となったらどうだろうか。人肉っておいしいんですよ、とかそういう話をしたいわけではないのは一目瞭然だし、その人肉どっから調達してきたんだ、一番酷いやり方で人肉を調達してるのは誰だ、とまあこうなる。
要するに、比喩が安直なのである。何かを批判する、ということがおしなべてトマトが好きか嫌いかレベルの話だと思っているのだろうか。
多分だが、太田弁護士はトマトが好きかキュウリが嫌いかレベルで批判しているわけではないだろう。「吐き気」というのだって、俺が海藻サラダを食べると反射のごとくえづく(生の海藻がひどく苦手なので)とかそういう話ではなく、生身の人間の扱われ方についての酷さを想うという話に読めるし。
これに先立っているいくつかのツイートもなかなかにひどい。
嫌いなものをわざわざ見つけに言って「これが俺の一番キライなものだけしからんけしからん」って暴れるパターンですが、「そんなに嫌いなら最初から探しに行くな」というまっとうな意見は最初から無視されているパターン。わざわざ検索ワードにエロを入れてエロ同人を探しに行くとか俺の理解を超えてる
— 鐘の音@新刊とらに委託中 (@kanenooto7248) 2017年9月4日
嫌いなものというのがトマトならわざわざ食べに行かなきゃ良さそうというのは分かる。しかし、太田氏の場合嫌いなものというのは女性に対する人権侵害なので、目に触れなきゃいいというものではないと思うのだが。
弁護士が「変態的な単語で検索したらとんでもないものが出てきたけしからん!!」と怒ったが、なぜその単語で検索したんだ?と思うと結構大変な仕事なのだろうw
— 鐘の音@新刊とらに委託中 (@kanenooto7248) 2017年9月4日
フェミがわざわざ、特殊性癖の同人誌やアダルトビデオを無理やり探してしまうのか、本当に謎ではある。怖いの嫌いと言いながらホラー映画観に行くようなものであろうか?
— 鐘の音@新刊とらに委託中 (@kanenooto7248) 2017年9月4日
ツイートの数からしてかなりの時間ネットに張り付いているようだから、そんなに気になるなら自分で調べてみたらいいのではないかと思うのだが。あと、この人が気に食わないものをわざわざ読んでは文句つけてるところ、何度か見たことがあるのだが気のせいかな。それは批判しなくてはいけないという動機があるからだ!というのなら、同じことがフェミニズム活動家の人についても言えるはずである。
鐘の音氏と同じようなことを言っている人はずいぶん多く見受けられるのも確かだ。Togetterのまとめにも多数出現しているし、それをブックマークしたはてブにも似たような声が多い。確かに、いきなりこの話があったら、なんでこの人?と思うのもわからなくはない。
しかし、太田弁護士のツイートそのものをさかのぼっていくと、当該ツイートの直前にいくつか関連した話題のツイートがRTされているのがわかる。たとえばこんなもの。
本当に生きている人間を真空パックに閉じ込めたのですか?
— 猫耳帽子をかぶったツツジ (@hsifgh) 2017年9月3日
とても危険なことだと思います。どのような安全担保策をとっていたのですか。https://t.co/2nD1yrG70d
いずれも、バンドハラスメントというバンドの宣伝ツイートについたレスポンスだ。7ツイート、このバンドのアカウントへの批判的なツイートがRTされていて、その後少し関係ない別の話題を挟んで当該ツイートがある。
じゃあそのツイートというのはどんなかというと、
その①
— バンドハラスメント (@BAN_HARA) 2017年9月1日
《2nd single リリース決定》
《人間を真空パックに》
10月4日(水)に2nd single
「解剖傑作」のリリースが決定。
フォトグラファーハル氏とタッグを組み「愛を閉じ込める」をコンセプトに女性を真空パックに閉じ込め、息が吸えない数秒間をジャケットに。 pic.twitter.com/NXeof564em
なるほど、と話が見えてくるではないか。これを受けたツイートとみればしっくりくる。
若い女性を真空パックしたジャケットが話題になる→危なくね?大丈夫なの?→AVではそういうジャンルもあるのに!知らないのか!→ググりました、本当にありました、ひどいですね、ちゃんと安全管理されてるのか強要されてないか?みたいな話の流れだった記憶が…。
— 瑠璃子 (@37_2_le_matin) 2017年9月4日
間の部分はよくわからないものの、このツイートなどはわりとよく事情を要約してありそうに見える。少なくとも、「この弁護士はAVがよっぽど好きなんだろw」のようなよく意味のわからない嘲笑じみた推測よりは妥当そうだ。
また、こんなまとめもあり、やはりいくつか事情について触れているツイートが見える。
togetter.com もっともこれらのコメント欄や、まとめられたツイート自信にも似たような文脈で吹き上がっているツイートが数多いので、ああまとめた人やコメントしてる人もちゃんと読んでないんじゃないかなあという疑いが出てこない。
太田さんの発言に酷いリプや中傷が集まってるけど、女の子真空パックして撮影したって https://t.co/7jMHdDH0j3 この記事探す過程で、検索にAVらしき結果が引っかかったんだよ。まさかそんなジャンルまであるとは思わないし、気になったら検索するじゃんよ……。 pic.twitter.com/K9fV0rltN7
— はなびら葵 (@hollyhockpetal) 2017年9月4日
元々カップルで撮影していた真空パックアート(https://t.co/Mr4Yaw5lVw)、バンドとコラボしてCDジャケットになったのが女の子のみになって、これがニュースサイトに載って「女性蔑視」と物議を呼んで(個人的にここには同意できない)、AV真空パック検索に至ったのでは
— 藤谷“まつおか”千明 (@fjtn_c) 2017年9月4日
さらにそこをたぐると、その撮影に関する裏話についての記事もある。
youpouch.com もともと、CDのジャケットで人間を真空パックしたという話があったわけですね。
なかの人には息を止めてもらっています。その間は10秒。真空の完成度を高めるのに5秒、撮影に5秒。息を止めた状態で耐えられるみなさんの平均時間は15秒ほどなので、そこから余裕を見て10秒にしています。念のため、撮影時は1名のレスキュー要員に待機してもらっています。私に何か有った場合に袋を開けるのも、彼の役目。それからもし被写体が具合が悪くなったときのために、携帯酸素と頭を冷やすものは常備して撮影しています。
確かにかなり用心しないとヤバい案件なわけで、そりゃ危ないというのが納得できる(ただし、この記事自体は太田氏はRTしていない)。で、おそらくその流れで「それを扱ったAVもある」という話を知れば、やっぱりそれは人権侵害は大丈夫なのかというところに思いが至るであろう。別におかしなことではない。むしろおかしなのは、唐突に変なことを言い出したかのようにまとめたひとつ目のTogetterのまとめのほうかもしれない。山本氏にしろ鐘の音氏にしろ、ニセ科学批判やデマバスターみたいなの大好きだと認識しているのだが、ご自慢のリテラシーは何をしている?リテラシーは元気か?
いや、確かにこの太田氏、公式RTがやたら多いので、たどるの大変というのもわかるが。すでにかなりたぐるのが大変なので、数日後には多分掘り出すのは事実上不可能になりそうである。
そして、そういう事案がありますよ、という話をうけて、調べるために検索をしてるのだから、そういう事案が入ってくるような検索をかけるのは当たり前だと思える。なのだが、なぜかTogetterでは検索でセーフサーチをOFFにしているはずだと嗤っている人が多数見られる。控えめにいって意味がわからない。あなたR18ジャンルについて調べたい時にR18外しにチェック入れるの?
エロに詳しいオタクのはしくれとして言わせてもらうと、世の中には呼吸制御というジャンルがある。pixivあたりを自己責任で検索していただければいろいろひっかかってくると思うのだが、まあ三次元で安易にやると命がやばいやつである。ちょっと趣向が違うかもしれないが、安全に配慮した「プレイ道具」のようなものもある。バキュームベッド、などで検索するといろいろ情報が出てくる。それを布団圧縮機でやるのはまあ、危険であろう。
こういう、二次元ならまだしも三次元だととてつもなくやばいジャンルはけっこうあるというか、エロ漫画全体がわりにそうかもしれない。やたら後ろに入れたがるし。そういうジャンルをあてこんだ三次AVのというのは、注意してしかるべき、というかするのが二次オタの嗜みであるように思うのだが、違うのだろうか。
で。
太田弁護士に落ち度があるとすれば、話を趣味のところに持って行ってしまったことだと思う。しかし、これはけっこう個人的に気になるところはあって、異性が苦しんでるところを見て興奮するというのはどうやったって悪趣味じゃねえかと思うのだ。悪趣味といったら語弊があるが、いくら人の性癖は無限といっても、というか無限であればこそ、相手を傷つけることで興奮する、というようなジャンルが理解を得すぎているという状況は結構危ない。
ミステリーやホラーに比べてエロでこういう話がやり玉に上がりやすいのは、興奮するため、という用途が直結していて、それゆえの「そういうことをやってみたいのね?」という親和性だろう*1。人殺しを楽しむためにミステリー読む人あんまりいないだろうし。特に生身の相手が存在する三次となると。「猟奇的」「恐怖を覚える」というのはそこまでケシカラン評価だろうか。
線引きの難しさはあるだろうが、広大な性癖の宇宙を全部認めてしまえ!はかえって規制を呼びこむことにしかならないわけで、批判に対してもっと誠実に考えていかなくてはいけない問題のように思うのだが。
表現規制反対派でも、このあたりについて留保している人もいる。
いずれにしろ、他人の身体を性的対象にする行為は、非常に危険なので、真空パックだろうが、熱烈な恋愛だろうが、それを自覚して、他者の身体や自由を侵害することのないようするべきだろう。
— 荻野幸太郎 (@ogi_fuji_npo) 2017年9月4日
AVを見ているだけの人も、安全な制作過程がはっきりしたもの以外は拒絶する毅然とした態度が必要だろう。
例えば極端な話、スナッフフィルムを見てる人はあんまりそれを公言しないし、したら不利益を被ることは容易に想像がつくわけで、その延長線で考えるのはそんなに難しい話なのか?と思うのだが。
で、それはそれとして、山本氏である。
鐘の音氏の10000以上RTされていて、されているツイートもそんなわけでかなりナイーブな見方をしているものだと思うが、山本氏も大同小異だ。
なるほど格闘技やカーレースも人が死ぬ可能性がある競技である。ほほうなるほどなるほど、そうですね。
で、それって今の話と何か関係あるんでしょうか。
問題点は多分2つある。まず、それが危険で、やる側も注意に注意を重ねているということは、格闘技でもカーレースでもなされてて、それは見る側からはっきりわかるよね?ということ。なんのためにタオルの投げ込みやヘルメットがあると思ってるんでしょうか。すぐれた身体の持ち主が、高度な訓練を受けてしか出られない、ということが傍目にわかるから、ということでもある。このあたりを、虐待系AVがどれくらい共有しているか、という問題になってくる。合意はどれくらいあるのか、とか危険があぶないときのために控えているスタッフはどうなっているのかとか、まあいろいろ。
もうひとつは、それが人権侵害にならないシロモノと、いつから確信していた?ということ。山本氏にしろ鐘の音氏にしろ、いじめについてそれなりに発言していたところを見覚えがあるのだが、たとえば山本氏は格闘技が子供のいじめにどれだけ転用されているか、などということを考えたことはないのだろうか。先生に見つかったら、「一緒に遊んでただけですよ、な!」とかいう「強制ではない」話を聞いたことはないだろうか。人を無理やり車に載せてアクセルを踏ませる人はいないだろうが、要するにどっちも場面次第では問題になりうるものだ。で、太田氏は問題になる場面について考えているわけで。山本氏の指摘が、ただのつまらない混ぜっ返し以上の何の意味があるのか不明である。
もっとはっきりいえば、「死人が出そうだからって、なんで批判されなくてはならないの?」って、相当酷い人権感覚だと思うのだが。そもそも。
こういうのはむしろ、「なんで格闘技やカーレースは、死人が出かねないのに続けられているんだろう?」というほうを考えたほうがいろいろ見えてくるのではないか。
このあたりの感覚を、たとえばこんなふうに表現しているツイートもあった。今回、やたら引用RTが多くて申し訳ないのだが、いまいちピンとこない違和感を人のツイートで腑に落ちる、ということが多かったのでご容赦頂きたい。
特殊性癖が、人道の問題で完遂できないからこそのフィクションじゃないのかね。SFには、死を克服して、スナッフ系が当たり前過ぎて珍しくなくなった世界を描いたものとかもあるでよ。
— 柏崎!!! on ICE (@miraiko) 2017年9月4日
「自分の性嗜好で危険な行為をする」というのと、「誰かの性嗜好を満たすために危険な目に合わされる人がいる」ということを一緒にすべきでない。
— 近藤史恵 (@kondofumie) 2017年9月5日
プロレスがしばしばショーだと言われるように、「AVだってフィクションなんだから、あくまで演技で小さい穴とか開けてあるかもしれないじゃないか」という声もあったが、だったら余計にヤバいのではないか。歴戦の人殺しでもないかぎり、何をどれくらいやったら人が死んだり後遺症が残ったりするかなんてのは大抵の人はわからんのである。つまり、それが演技なのかやらせなのかが分からない。ということは、より危険だ。プロレスの真似事で一番危険なのは、本当はショーだから手加減したり下準備がされていることを知らずに、「すごそうな技を真似しちゃう」ではないのか。
AVの真似をするとヤバいですよという話は少し前にも話題になっていたと思うのだが、要するにそういうことでもあるわけで。ちなみに、こういう話ですぐ持ちだされる火曜サスペンスなんかは、そもそも真似してる時点で危害を加えるつもりだという点で異なる。
フィクションとノンフィクションの区別というのはつきそうでつかないこともある。やばいのは、「ノンフィクションであるかのように見せかけて、フィクションが入り込んできている」を真に受けてしまうということだと思うので、このAVの案件などはどんぴしゃではないか。だからこそ、フェミニズムからある程度遠い人でも、太田氏の消費する側への嫌悪は批判しつつも、しかしこういう趣向はなんとかしないと事故が危ないだろう…… みたいな人がちょくちょく見えるわけで。そう考えると、山本氏や鐘の音氏の「木を見て森を見ず」ぶりは目を覆わんばかりである。
鐘の音氏は、「美味しんぼ」の中で福島に取材に訪れた山岡が鼻血が出たと騒ぐシーンを(正しく)批判した人でもある。なぜフィクションのはずの「美味しんぼ」を批判の俎上に上げたんだろうか。この批判が的を射ていたと自分が思うのは、「美味しんぼがフィクション仕立てながら、現実の日本の社会問題を扱っていたから」だと考えているし、それは、フェミニズムの人がフィクションやAVの描写や女性の扱われ方を俎上にのせることと同様の構造ではないかと思うのだが。
あと、この人も近代史関係でけっこう興味深く見てるアカウントなんだけど、これもひどいだろ。
太田弁護士の「真空パックAVで検索してみた」は、嘲笑って大喜利にする前に、「彼ら/彼女らは、戦術を変えてきた」というのをしっかり認識して注意しておくのが必要じゃないかな。味方の少なそうなニッチな表現を狙い撃ちして、「即刻全現場でやめさせる」という実績作りをしようとしていると。
— こなたま(CV:渡辺久美子) (@MyoyoShinnyo) 2017年9月4日
変態性欲講話・変態性欲の研究―変態性欲と近代社会〈2〉 (近代日本のセクシュアリティ―“性”をめぐる言説の変遷)
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*1:実際にはこまかくみていけば、例えば玉潰しエロ漫画は読むけど自分で潰されるのは勘弁、という人とかだっているのは知っているけれど、まあおおよそは