スタティスティック雑技団。

あるいはこいつら信頼区間95%伝説。

  いや、何の意味なのかっていうと、語感とゴロ以外なにもないんだけど。

 最近は、ツイッターの抜粋しかしていないので、少し真面目なエントリを。別に好きで抜粋しかしてないわけじゃないのだが、ツイートって後から追うのが大変だからメモ用にとりあえずベタベタ貼り付けておこうってなっちゃうんですよね。

 佐々木俊尚氏のこんなツイートをみかけた。

 

 しかし、これは統計の見方としてものすごく下手な見方をしているのではないか。いや、別に俺は統計の専門家でもなんでもないんですけどね。

 このアンケートは、新聞の信頼が低くなったと答えた人のうちで、偏向しているからだと答えた人が増えたからだ、という話が出ている。それを元にしてツイートしているのが佐々木氏である。それ以外のなにかが元になっているのかもしれないが、ここからは他に読み取れる情報はない。

 よく見て欲しい。偏向している度合いが高くなった、ではない。偏向していると答えた人が増えたのである。この2つは別物だ。「偏向しているから信頼できなくなった」という人がいることと、「実際に偏向している」は直結するとは限らない。治安が悪くなっていなくても、ワイドショーでキレる17歳とか言いまくれば体感治安は悪くなるし、いらん持ち物検査ばかりされてうんざりするのはダシにされた中高生だったりする。絶対に許さないぞ。

 こんなことは、「統計でウソをつく方法」からの統計リテラシーの(たぶん)常識である。

 もし、証明したいと思うことが証明できなくても、何かほかのことを論証して、両方とも同じことなのだと見せかければよいのである。統計数字を目の前につきだされてぼんやりしている時には、その違いに気がつく人などめったにいないだろうから。こじつけの数字は確実に読者諸君の役に立つ道具なのである。もちろん、今までもそうだった。
(ダレル・ハフ「統計でウソをつく方法」(講談社ブルーバックス,1968)p118)

  あるいはこんな例は、ああ最近だとあの話じゃないか!とピントと来る人もいるのではないか。

 一九五二年に、カリフォルニアのセントラル・バレーで報告された脳炎患者は、最悪と言われたその前年の三倍にも達した。びっくりした多くの住民たちは、子供を別の土地に疎開させた。ところが、実際に患者を数えてみると、その嗜眠性脳炎による死亡はたいしてふえていなかったのであった。そして、ことの起こりというのはこうだったのである。長年の懸案と取り組むために、州と連邦保健局の役人たちが大勢動員された。その結果、以前なら見過ごされ、おそらくその病気と認められないような軽い症状のものまでたくさん記録されてきたのであった。
(「統計でウソをつく方法」p204)

  つまり、佐々木氏が欲しいであろうデータはこれじゃないはずなのだ。なので、このツイート自体が(これをアジのための情報として振りまきたいのでない限り)そもそも無意味である。

 ちなみに同じように増加している項目があって、それは「政府・財界の主張通りに報道するだけ」という項目なのだが、佐々木氏は何故か触れようとしない。まあ140字では余白が狭すぎるということなのだろうが。
 
 とはいえ、直接的に測ることのできないものさしというのがあるのも確かである。そういうときに、おそらく類似の傾向があるだろう、と仮に見積もってみるのは悪いことではない。アニメの人気をディスクの売上で見積もるのは、直結はしないかもしれないけれど、おおよその基準にはなる。これがアニメのおもしろさを論じるとなるとどうだろう。

 なので、もう少しこの数字の実態を掘り下げてみたいところだ。

 佐々木氏のツイートのグラフが掲載されている。オリジナルの記事を見てみることにする。これはyahooに掲載されたもので、ガベージニュースの運営者である、不破雷蔵氏による記事らしい。

 

news.yahoo.co.jp

 この記事に紹介されているグラフはいくつかあるが、佐々木氏が引用しているのは信頼が低くなった、という人にその理由を問うたものの内訳。じゃあ、それはどっから来たかというと、さまざまなメディアごとについて、信頼度がどう変わったか?を質問したアンケートがまずあり、そこで「低くなった」と答えた人の内訳がさきほどのものである。

 で、それに関するグラフを見ると、確かに新聞は確かに信頼度が下がっていて、その下げ幅は年々高くなっている。それはそれで良いんだけど、見ると他のメディアもおしなべて下がっている、ということになる。しかも、プラスになっている年もメディアもない。それってなんなの。今年もここ10年で最悪の出来のマスコミとかそういう話なの。

 そもそも、このグラフ、処理が少し手が込んでいる。それぞれのメディアに対する信頼がどう変わりましたか?という設問に対して、「高くなった」と答えた割合と「低くなった」と答えた割合の差を出している。確かにその差が大きければ信頼が失われているといえるのかもしれないけれど、元の値が示されていないこともあって、結局何を表しているのか、いまひとつよくわかりにくい。

 縦軸の数字をよく読むと、値はだいたい数%くらいである。「高くなった」と「低くなった」の差が数%。母数全部は100%ということを考えると、これはあんまり差がないということにも読める。青木率のように、経験的に使われている尺度なのかもしれないが、特にこの数字が特別な意味を持つという解説があるわけでもないし、よくわからない。

 ということで、調査結果そのものを見ていることにする。yahooの記事の数字は、公益財団法人新聞通信調査会というところが行っている世論調査に基づいている調査書が下敷きになっているようだ。これは、別に記事にも名前が出ているので、それを使って記事が書かれていることには何ら問題はない。

 

www.chosakai.gr.jp2017年調査結果はこちら

 

 この報告書を見れば、記事のもととなった具体的な数字が分かる。
 もうひとつ分かることは、「変わっていない」「無回答・わからない」と答えた人の存在である。これは、yahooの記事ではわからない。そういう選択肢がある事自体は当たり前というか、ちょっと想像すればわかるのだけれど、しかしこれを考慮に入れると少し結果の見え方が変わってくる。

 まず、実際の数字を拾ってみる、新聞の信頼が「高くなった」と答えたのが4.2%、「変わらない」と答えたのが86.2%、「低くなった」と答えたのが7.9%である。で、yahooの記事では、そのうち、「高くなった」と「低くなった」の差をとった値を出しているから、-3.7%になる、とこういうわけだ。

 確かに「低くなった」と答えた人のほうが多い。そしてその差は少しだが前より大きくなっている。それはそうである。が、このグラフには、そもそもほとんどの人はどちらとも思っていないという情報が落ちてしまっている。差だけをグラフにすると、絶対値が小さいこともあって大きく変化しているように読めてしまう。

 これが「インターネット」に対する信頼性になると、「変わらない」の割合がだいぶ減って68.6%しかいない。その代わり、「高くなった」が8.1%で「低くなった」が15.3%となっている。低くなった人が非常に多いが、高くなった人も多い。インターネットは、この中で比較されているメディアとしてはかなり「変わらない」が少ないのでこんなふうになるわけである。

 つまり、新聞に対する印象はわりと変化が少なく、インターネットに対する印象は良くも悪くも大きく変化しているという読み方もできるわけだ。

 その他のメディアも含めて、全体をまとめると、こんなグラフになる。

 まずそれぞれのメディアについて、信頼性が「高くなった」と答えた割合。

f:id:aruite3pun:20180131184121p:plain

次に、「低くなった」と答えた割合。

f:id:aruite3pun:20180131184138p:plain

次に、「変わらなかった」と答えた割合。

f:id:aruite3pun:20180131184145p:plain

(原点を0%にするとすべてのグラフの線がくっついて見づらいため、縦軸は、0〜65%をカットしてある。そのため、実際より大きく変化して見えることに注意)

 うむ、これではとてもじゃないが新聞の信頼が最近よくないことについてどうこういう資料としては使えなさそうだ。もっとも、yahooに不破氏が掲載しているグラフでも、別に新聞がとびぬけて値が大きなマイナスというわけでもない。大きなマイナスになっているのは、雑誌とインターネットである。一応差そのものの時間変化を見れば、大きくなっているのは確か、とは言える、その程度である。

 さて、次に評価が変わった理由、についてである。これは、「特定の勢力に偏った報道をしているから」という割合が29.7%から41.4%に変化したことが記事でも言及されていて、元々の資料でも書かれている。記事でははっきり言及してないが、「反日ガー」とやたら言いたい人に注目させたいことがなんとなく伺える書き方をしている。「政界や財界の主張通りに報道するだけだから」という項目があって微妙に相補関係になっているように見えるので、それはわからないでもない(と、いうようなことは、記事にも言われている)。ただこれどうなんだろうね。政界の主張通り、というのには、例えば杉田水脈氏のような主張はおそらく含まれないのである。

 まあそれは良い。佐々木氏も、これをもって「中立報道が終わった、いう内容のツイートはしているけれど、どっちに向けて中立を捨てたとは主張していない。なんとなく行間から読めるのはこの際横に措くとして。
 それより気を付けないといけないのは、この数字は新聞への信頼性が「低くなった」と答えたうちの割合であるということだ。

 これが、例えば高くなった40%、低くなった60%、の中での比較なら、その中の40%というのはかなり大きい数字である。しかし、これは元が全体の7.9%(2016年は6.9%)しかいなかった集団に行った再質問なのである。それを加味するとどうなるか。

 すると、2017年には3.3%、2016年には2.0%が、「特定勢力に偏った報道をしているから」新聞の信頼が落ちた、という解答をしているということになる。5割増しといえば聞こえはいいのだが、こういうのは普通横ばいっていわねえか

 ちなみに「政界や財界の主張通りに報道するだけだか」と答えたのは、0.9%→1.3%。こちらもことさらに言うほどではない変化。その点については触れなかった佐々木氏は妥当である。分かってて触れなかったのかはともかく。
 元記事で言及されている「誤報があったから」を含めて、長期的な変化を追うとこうなる。

f:id:aruite3pun:20180131184600p:plain

 「誤報があったから」という解答が2014〜2015年に一時的に増えたことは顕著で(これは元記事でも言及されている)、あとはまあ横這いに近い。いや、2017年には「特定の勢力に偏った報道をしている」と答えた人が増えているといえなくもない。しかし、縦軸の数字を見れば分かる通り、それはスケールのトリックに近い。少なくとも、佐々木氏の言うような「日本の新聞が唱えてきた客観的中立報道、ついに終わりのベルが鳴る」という結論は、仮にこの数字が本当の偏向具合を反映していたとしても、よほど大げさな人か、反メディアを煽りたいという目的のために実数から目をそらしていないと出てこないと思う。報道の自由ランキングが坂を転げ落ちまくってるほうが、まだメディアのありかたの危機を表明してそうである。いや知らんけど。

 

ちなみに元記事には、

新聞は主要メディアの中ではNHKテレビに次いで高い信頼度を持っているが、それはこれまでの先人諸氏の努力によって積み上げられた「信頼」と名付けられた資産を食いつぶして、ようやく維持しているに過ぎない。その現状を認識し、行動を律する事ができなければ、「信頼感は下落した」との回答者率は、来年度以降も高い値を維持したままとなる。果たして新聞に携わる人のどれだけが、その事実を理解しているだろうか。

とある。
 まずいいたいのは、要するに高くても低くても結論の部分には関係ないじゃないか、ということである。信頼度が高ければ「資産の食いつぶし」といいながら別のアンケートを持ち出す。信頼にそれほど大きな下落がなければ、あるいは他のメディアに比べてたいしたことがなければ、「差分を取って年比較」。これっていいかげんなマスコミがやることそのものではないか。「買ってはいけない」が添加物や化学物質の毒性について、経口摂取でダメなら皮下注射の数字を出し、直接の発がん性がなければ変異毒性の報告を出し、いまいち煽りきれなかったら「目に入ったら痛かった」と言い出したのを思い出す。

 再び、「統計でウソをつく方法」から。

どのような数字にしても、その表現の仕方はいろいろあるものだ。
たとえば、まったく同じ事実を表わすのに、売上高の一%の利益とか、投資額の一五%の利益とか、一〇〇〇万ドルの儲けとか、四〇%の利益の伸び(一九三五−一九三九年平均と比較して)とか、去年の六〇%減とか、いろいろに表わせるのである。そして、この中から当面の目的に最もかなった方法を選んだら、その数字が、事実を正しく表していないと気のつく者などほとんどいないだろうと思い込むが良い。
(「統計でウソをつく方法」p131)

 それはともかく、ずっと信頼感の高低の話をしてきたあとで「高い信頼度を持っている」話をしているので同じ基準で論じられているかのように見えてしまうのだが、ここで言う信頼度を問うアンケートというのは、別の設問である。

 これは、それぞれのメディアの信頼度を0から100点の間で評価してもらうというものだ。で、記事でメインに扱われている信頼度がどう変わりましたか?というのは別の質問。別に同じ人が毎年アンケートしているわけではないので、信頼度のアンケートの値の高低を参考にして信頼感の変化がはじき出されているわけではない。ざっくりした傾向は変わらないはずではあるが。

 しかし、例えば先程の「信頼感がどう変化したか」についてのアンケートでは全メディアが2013年からずっと「高くなった」より「低くなった」が優っていて、それは2017年の場合も変わらない。ところが、信頼度アンケートでは、例えば雑誌についていうと、44.6→45.0とわずかながら信頼度が上がっているのである。そのほか新聞、NHK,民放テレビ、ラジオについても微増していて、信頼度が下がっているのはインターネットだけである。あれ?

 ここからは俺の推測になるのだが、たぶんそれぞれの回答者がだした「得点」自体がかなりざっくりしたものだろうと思う。別にれっきとした採点基準があるわけでなし、71点とか、89点とかつけてる人はあんまりいないのでは? それを平均しているのだから、誤差バーとかいう以前に「だいたいの当て推量」を出ない数字でしかない。ネットよりは新聞、民放よりNHKを信頼してるんだろうな、くらいは言えるとして。

 じゃあ「信頼感が高くなった、低くなった」があてになるのかというと、元が高いメディアなのかそうでないかという要素は大きい。まとめサイトの信頼感が「低くなった」と今更言う人はあんまりいないと思うし、俺は新聞は割と信頼している方だけれど、多分「高くなった」と答えはしないと思う。この時点で、どう思っているかは実際のメディアの実態とつながるわけではないわけで、それに加えてその理由を主観で問う質問への解答、とこうなったものを嬉々として(かどうか知らないが)引用しているのが佐々木氏ツイートである。とりあえず、リテラシーがないのか、わざと恣意的なデータを持ってきているのか、はたまたメディア批判をしている意図は実は自分がそうだと信じている立ち位置につきたいだけなのか、はっきりして欲しいところだ。まあ三番目は邪推。

 メディアの偏向度合いを客観的に調べる方法なんてないので、仕方ない側面もある。それは、2014年ごろに「誤報がある」ことをもって新聞の信頼度が下がったと答えた人が(これはかなり顕著に)増えたことともつながる。ありていにいえば騒ぎ立てれば下がるということで、それはマスコミがマス「ゴ」ミと言われる所以でもあると思うのだが、なぜかyahooの記事には、そのバッシングに加わった新聞社の名前はyの字もsの字も出てこない。

 これは、2017年になって「特定勢力に偏った報道をしているから」が増えたことについても似たようなことが言える。新聞はフェイクニュースのかたまりだ、という主張ばかり見ていれば、本来の新聞の内容にかかわらず信頼は低くなるのである。どういう総理が国会でどういうことを言っているのか、などを踏まえればメディア以外のところに原因を求めたほうが良いようにも見える。

 実際のところ、信頼が「低くなった」と答えている人がかなり高くて、しかも2017年になってハネ上がっているのは「インターネット」だったりする。メディアの信頼性の変遷、という観点だと、新聞についてのアンケートの細かい数字を詮議するよりも重要そうにも見えるのだが、もしかしたら「ネットメディア」の書き手としては、それはネットで数字が取れないという判断があるのかもしれない。yahooの記事についているはてブでの好評ぶりも、ある意味それを裏付けているようにも見える。まあ不破雷蔵という名前は、ネットメディアとツイッターの外では普通は5年ろ組の頼りになるけど優柔不断な先輩を思い浮かべる人が多いと思うんで(中でもそうかもしれない)、基本的にネットの人だろうし。もっとも、もしそうなら、それは民放がニセ医学煽りで数字を取ったり、雑誌がセンテンススプリング砲で数字を取るのと変わらないけれど。単純に新聞がテーマありきだったからいろいろ数字をいじって探した、のほうがまだ好意的な見方か。

 もちろんこの数字にしても、インターネットの信頼性が2017年に本当に低くなったことを意味するものではないわけだが。(個人的には、WELQ事件が影を落としてるんではないかと思うが、あくまで推測)

 

 

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  ところで、メディアの信頼性といえば、佐々木氏においてはこの本のタイトルはなんだったのかについて伺ってみたいところだ。マス「ゴ」ミ的手法の典型ではないか。浜矩子やラビ・バトラの本を信頼する人がそれほどいない(婉曲表現)のは、つまりそういうことだろうに。「編集部が勝手につけた」なのかもしれないけれど。

 

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   古典ということで今回は多数引用したけれど、かなり昔の本なので時代を感じさせる記述が多い、いろんな意味で。当時のアメリカってこうだったんだなあ、と別の想像もかきたてられる本でもある。

 あと、ダウン症候群やガンの初期発見の重要性についての統計に関する記述については今となっては誤解を招くのではないか。

 

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